1.相続人には何が相続されるのか
2.相続の承認・放棄の選択
2-1 相続の単純承認
2-2 相続の限定承認
2-3 相続の放棄
3.相続放棄をできる期間
3-1 自己のために相続の開始があることを知った日
3-2 相続放棄を選択できる期間の伸長
3-3 特別な事情があるとき
ある人について相続が開始したとき,その相続人は,相続の単純承認,限定承認,または相続放棄の3つからいずれかを選択することができます。
相続放棄をした場合には,その相続に関しては,はじめから相続人とならなかったものとみなされるため,被相続人が負っていた債務(負債,借金)を引き継ぐことも無くなります。そのため,被相続人が債務超過であるときに,相続放棄が選択されることが多いです。
相続放棄(または、限定承認)をしようとするときは,自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に,家庭裁判所で手続きをしなければなりません。
1.相続人には、何が相続されるのか
相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継するとされています(民法921条)。
したがって、各相続人は、被相続人が持っていた現金、銀行預金、不動産などの財産に対して、その法定相続分に応じて相続する権利を持ちます。また一方では、プラスの財産だけでなく、被相続人が負っていたマイナスの財産ーつまり借金などの負債・債務といわれるものーについても、その法定相続分に応じて各相続人に引き継がれることになります。
マイナスの財産には、借金のような既に発生しているものだけではなく、保証債務の保証人の地位のように、現時点では隠れていたとしても将来発生するものも含まれています。
2.相続の承認・放棄の選択
上記1.のとおり、相続人は、被相続人のプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(債務、借金)の支払い義務も引き継ぎます。しかし、相続人だからといって、いつでも無限に債務を相続しなければならないというのはあまりにも理不尽です。そこで、相続人としては、相続をするかどうかを自分で決めることが出来るとされているのです。相続人が選択できるのは、相続の単純承認、限定承認、そして相続放棄の3通りです。
2-1 相続の単純承認
相続は、人が死亡したら当然に発生するもので,何の手続もせずとも当然に発生します。逆に,相続したくないと言うときに手続が必要です。相続を知ったときから3カ月以内に相続放棄や限定承認の手続をしなかった場合や、相続財産の全部または一部を処分したときに、相続を承認したものとみなす制度を相続の単純承認といいます。
単純承認したときは、相続放棄や限定承認はできなくなり、相続により無限に被相続人の権利義務を承継することになります。
2-2 相続の限定承認
限定承認とは、相続人が、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐという方法です。限定承認は、マイナスの財産の金額がプラスの財産より明らかに多い場合や、プラス・マイナスを含めて相続財産の内容が良く分からない場合などに有効です。
相続した後に、多額の借金の請求書が届いてびっくりした、なんてこことも良くお聞きします。しかし、限定承認をしていれば、相続したプラスの財産より多いマイナスの財産の部分は返さなくてもかまわないのです。また、結果的にプラスの財産を引き継ぐことになったとしても、問題ありません。
限定承認をする場合は、相続放棄と同じように、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に被相続人の住所地の家庭裁判所に申立をする必要があります。ただ、注意しなければならないのが、この申立は相続人が全員で共同してしなければならないことです。
相続人のうち1名が単純承認してしまっているような場合や、1人でも限定承認はイヤだという方がいればできなくなりますので、注意が必要です。
限定承認の詳細についてお知りになりたい場合は【こちら】をご覧ください。
2-3 相続の放棄
相続放棄とは、被相続人のマイナスの財産だけではなく、プラスの財産をふくめた一切の財産を放棄することです。相続放棄をした人は、その相続については最初から相続人で無かったものとみなされます。相続人ではないのですから、被相続人の相続債務を支払う義務を負うことはなくなります。よって、相続財産がマイナスの方が多い場合は、相続放棄が最も有効です。
相続放棄をするときは、相続の限定承認と同様に、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に被相続人の住所地の家庭裁判所で手続をする必要があります。
また、限定承認と違って相続人全員で行う必要がなく、各相続人毎に行うことができます。
しかし、いったん相続放棄をしてしまえば、それを撤回することは原則として不可能です。相続放棄を選択する際には、財産や負債などをしっかり調査してから慎重に判断すべきです。
3.相続放棄を選択できる期間
3-1 自己のために相続の開始があることを知った日
相続の承認・放棄を選択できるのは、自己のために相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内です。「自己のために相続の開始があることを知った日」というのは、被相続人が死んで自分が相続人になったことを知ったときです。単に被相続人が死亡した日ではありません。
たとえば、被相続人の子どもが相続放棄したとき、子どもは最初から相続人でなかったことになるので、場合によって父母や兄弟姉妹が相続人となります。しかし、死亡したときから3カ月以内としてしまうと、父母や兄弟姉妹が相続放棄を選択することが事実上困難となってしまうことが多く発生すると思います。そこで、子どもが相続放棄をして、父母や兄弟姉妹が、自ら相続開始があることを認識したときから3カ月がスタートすることになっています。
従って、相続人が複数いるときは、相続放棄を選択できる期間が各人ごとに異なることもあります。そして、この期間内に相続放棄の申述をしなかった場合は、単純承認したとみなされることになります。
3-2 相続放棄を選択できる期間の伸長
時の経つのは早いもので、単純承認するか、限定承認又は相続放棄をするか判断するために調査していたら、すぐに3カ月がたってしまうこともあると思います。このように遺産や負債の調査に期間を要するような場合は家庭裁判所に相続放棄を選択するかどうかの期間を伸長するように申し立てることも可能です。
3-3 特別な事情のあるとき
相続放棄は、自己が相続人であることを知った時から3カ月以内に申し立てをしなければならないという期間制限がありますが、この「3カ月」の期間制限がしばしば問題になります。
ここで、特別な事情のあるときの機関の考え方についてリーディングケースとなる判決をご紹介いたします。
熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人において相続開始の原因となる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた時から3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部若しくは一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべかりし時から起算するのが相当である(最高裁昭和59年4月27日判決、判例時報1116ー29)。
この判決は、相続人らは被相続人の死亡の事実と自己が相続人であることを知っていましたが、被相続人の死亡後一年近くを経過してから、被相続人が訴えられていること及び被相続人の保証債務の存在を知ったというような場合では、3か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかったのが、
①被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、
②このように真実について相当な理由がある
として、このような特別な事情があるときは、相続放棄や限定承認を選択することができる期間は、相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時か通常これを認識できるときから起算するべきだと判断しました。
3カ月経過後の相続放棄は、このケースにあてはめてみて判断することになります。