「寄与分」の基礎知識

 被相続人の生前に、財産の増加や維持に特別な寄与があった場合に、相続人全員に一律の法定相続分を適用すると不公平になることがあります。寄与分は、このような時に相続分の修正を図る制度です。
 ここでは寄与分について説明します。

1.寄与分とはどんな制度ですか

 寄与分とは、共同相続人中に、被相続人の財産の維持や増加に通常期待される程度を超える特別な寄与をした者があるときに、相続財産から寄与行為者の寄与分をいったん差し引いたものを相続財産とみなして相続分を算定し、特別な寄与をした者がその差し引いたものを受け取る制度です。
 特別な寄与が相続人に報いることにより、相続人間の公平を確保しようとする制度です。
 寄与分は、昭和55年の民法の一部改正によって創設された制度で、昭和56年1月1日以降に開始された相続に関しては寄与分を考慮することができます。

 寄与分が認められるには次の要件を満たす必要がありますので、簡単には認められるものではありません。

 ①相続人自らの寄与があること
 ②寄与行為が「特別の寄与」であること
 ③寄与行為によって、被相続人の財産が維持又は増加したこと


2.相続人自らの寄与があること

 2-1 相続人の寄与

 寄与分を受け取ることができるのは相続人に限定されています。したがって、相続人以外が特別の寄与をしていたとしても、その者は寄与分を受け取ることができません。例えば被相続人の内縁の妻が、被相続人に対して療養看護に努めて、その貢献度が非常に大きいような場合でも、相続人ではない内縁の妻は寄与分をもらうことができません。
 もしかすると不公平に感じられるかもしれませんが、寄与分は相続人間で遺産分割をするに際して公平を図る制度であるため、相続人以外は対象外とされています。また、相続人以外の者が、被相続人に対して特別の寄与をしていた場合は、通常、その時に何らかの補償をしたり、遺言で遺贈すればよいと考えられています。

 2-2.相続人以外の寄与(相続人の妻や子の寄与)

 相続人しか寄与分を請求できないということですが、相続人自身には特別な寄与が認められないとしても、配偶者や子供が、特別な寄与をしていた場合はどうでしょうか?
 たとえば、長男の妻は、長男の代わりに献身的に被相続人の看護や介護に努めてきていたような場合でも寄与分は請求できないのでしょうか。
学説は、相続人以外の寄与分を認めるものと認めないものとが分かれているようですが、裁判例の中には、相続人以外の者の貢献を、相続人自身の貢献とみなし、寄与分を認めているものがあります。
 先ほどの例の場合でも、妻の貢献は長男の貢献としてみなして寄与分が認められることがあります。

東京高等裁判所 平成22年9月13日決定(家庭裁判月報 63 巻 6 号 82 頁)
長男の妻による長男の履行補助者としての被相続人の入院中の看護や介護は同居の親族の扶養義務の範囲を超えて相続財産の維持に貢献したと評価することができ、また、長男は約15年にわたって勤務先から支給された給与の全額をいったん両親の家計に入れ、その管理を被相続人又はその妻に任せて家計を援助していたものであって、相続財産の維持及び増加に寄与したと評価することができるとして、長男の寄与分を認めた事例


 2-3.代襲相続人

 代襲相続とは、例えば、祖父が亡くなった時に、祖父よりも前に父が亡くなっていたとき、父の子が父の代わりに相続することです。
 この例で、父が祖父に対して、特別な寄与があった場合、代襲相続人が寄与分を主張できるのでしょうか?
 代襲相続人の相続分は、被代襲者が受けるべきであったものと同じ(民法901条)とされていますので、代襲相続人(上の例の「子」)は、2-2.の場合と同様に、被代襲者(上の例の「父」)の相続分が請求できると考えるべきでしょう

3.寄与行為が「特別の寄与」であること

 寄与分が認められるためには、その寄与は単なる寄与では足りず、特別の寄与である必要があります。
被相続人と相続人との身分関係に基づいて通常期待されるような貢献は、相続分自体において評価されていると考えられています。例えば、夫婦間の協力扶助義務、親族間の扶養義務、互助義務の範囲内の貢献では寄与分としては認められません
通常期待される範囲になるのか、それを超えた特別な寄与になるのかは、個別具体的な事情によりますが、例えば、妻の家事労働は、夫婦の協力扶助義務の範囲内のものとして認められないでしょうが、一般的な扶養義務しか負わない子が家事労働に従事していた場合は特別な寄与が認められる場合もあると思われます。
 特別な寄与かどうかでよく問題になるのは、被相続人の療養看護に、特定の相続人だけが介護や看護に努めてきた場合に、その特定の相続人が行った介護や看護が寄与分として認められるかという問題です。
 介護に努めた相続人としては、当然に寄与分を主張したくなると思いますが、寄与分が「特別の寄与」を必要としていることから、容易には認められないという問題があります。

4.寄与行為によって、被相続人の財産が維持又は増加したこと

 相続人の行為によって、寄与行為がなければ生じたはずの財産減少を防止することができたり、財産が増加していることが必要です。
 例えば、精神的な協力・援助など、財産上の効果のない寄与は寄与分としては認められません。
 また、寄与分は、以前に相続人の行為によって生じた被相続に印の財産の維持または増加という効果が残っている場合にのみ認められます。例えば、相続人の寄与があったあとに被相続人が事業に失敗して財産を失った場合は、寄与分が認められません。

5.寄与分の定め方

 5-1.寄与分を定める手続き

 寄与分の額がいくらであるかは、その寄与の時期、方法・程度、相続財産の額などの一切の事情を考慮して定めることになります。
 寄与分は、共同相続人の協議で決定されますが、協議が整わない場合は、家事調停を行い、調停不成立の場合は家庭裁判所の審判により決定されます。
 

 5-2.寄与分の額

その寄与の態様によって、寄与分の額の定め方は異なります。定め方の例は次のとおりです。
  

5-2-1.家事従事型

 無償で家事労働を行っていたような場合です。家事労働などをせず、本来働いていたら得られただろう額を賃金センサスその他統計資料等などを基に算出し、支払うはずだった生活費の割合を差し引いたものに、寄与期間をかけて算出します。生活費控除率は事情によるようですが、30%~50%の割合が多いようです。
 寄与分=
 寄与相続人が通常得られたであろう給付額×(1-生活費控除割合)×寄与期間

  

5-2-2.金銭等出資型

①不動産贈与の場合
 不動産贈与の場合は、相続開始時の不動産の時価となります。
 寄与分=相続開始時の不動産の時価×裁量的割合
②不動産の使用貸借の場合
 使用貸借とは、無償で家を貸すことなどをいいます。この場合は賃料相当額と使用期間から計算します。
 寄与分=相続開始時の賃料相当額×使用期間×裁量的割合
③金銭の贈与の場合
 寄与分=贈与金額×貨幣価値変動率×裁量的割合
④金銭の無利息貸付の場合
 寄与分=利息相当額×裁量的割合

  

5-2-3.療養管型

 第三者に療養看護にあたらした場合、被相続人が負担すべき費用の支出を免れていることから、その負担を免れた額を計算します。
具体的には、第三者の日当額に、その療養看護にあたった日数をかけて計算します。
 寄与分=日当額×療養看護日数×裁量割合

6.計算例

 事例を通して寄与分の計算方法について解説いたします。

<例>
被相続人:父
相続人:子供3人
遺産総額:3000万円
寄与分:三男が600万円の寄与分を有する

この場合の寄与分の計算方法は次の通りです

①寄与分の額を、一旦、相続財産から引いて「みなし相続財産」を計算します。
→相続財産3000万円-三男の寄与分600万円=2400万円

②①で計算したみなし相続財産を、法定相続分で分割します。
→2400万円÷3=800万円

③あらかじめ控除した寄与分を、三男の相続分に加えます。
→三男の相続分800万円+600万円=1400万円

これで、相続分は以下のようになります。

長男 800万円
次男 800万円
三男 1400万円

7.まとめ

 いろいろと寄与分についてまとめてきましたが、寄与分が認められる場合、認められない場合は様々です。
 また、寄与分を主張したところ、相手方から、特別受益を得ているなんて指摘されることもありますので、寄与分を請求されるときは専門家にもご相談されることをおススメします。

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