「特別受益」の基礎知識

 被相続人から、遺贈を受けたり、生前贈与を受けていたことのある相続人がいる場合、相続分の算定にあたって、そのことを考慮に入れておかないと、不公平になってしまいます。遺贈や生前贈与は相続分の前渡しと変わりがないからです。
 ここでは相続分の修正要因である特別受益について説明します。

1.特別受益について

 特定の相続人が、被相続人から婚姻、養子縁組のため、もしくは生計の資本として生前贈与や遺贈を受けているときの利益を特別受益といいます。
 特別受益を受けた相続人がいるときは、相続分の算定にあたって、特別受益を考慮に入れておかないと、不公平になってしまいます。遺贈や生前贈与などの特別受益は相続分の前渡しと変わりがないからです。
 そこで、これらの相続人中に特別受益を受けた者がいたときは、その者が被相続人から得た利益の額を相続財産に持ち戻して計算し、各相続人の相続分を算定することにしています。
 持戻しのイメージは下の図のとおりです。持戻しとは、特別受益を相続財産に組み入れてみなし相続財産を計算することです。

2.特別受益財産の種類

2-1.遺贈

 遺贈とは、遺言によって相続財産の全部または一部を譲渡することです。譲渡の対象は相続人だけではなく友人その他第三者でも構いません。この遺贈はその目的にかかわりなく持戻しの対象となります。
 

2-2.生前贈与

 婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けたときは、その贈与は持戻しの対象となります。
あらゆる贈与が対象とされているわけではありませんので、どこまでが持戻しの対象となる生前贈与かで紛争になることがあります。

2-2-1.持参金、支度金、結納金

 婚姻もしくは養子縁組のために被相続人からしてもらった支度の費用は、一般的には特別受益になります。ただし、金額が少額で扶養の一部と認められる場合は,特別受益とはなりません。

2-2-2.挙式費用

 親の世間に対する社交上の出費たる性質が強い結婚式及び披露宴の費用は特別受益には含まれないとされることが一般的です。

2-2-3.結婚指輪、新婚旅行の費用

 被相続人に結婚指輪の購入資金を贈与してもらったり、新婚旅行の費用を負担してもらったときは、これらは一般的には特別受益になると思われます。

2-2-4.高等学校の学資

 高校(高等学校)は,親の扶養義務の範囲に属する義務教育は含まれず,高校の学資は特別受益になるとも考えられますが、高校への進学率が90%を超え、高校の授業料が無償かされたことなど、現在の教育環境に照らせば、高校教育も義務教育に準じて、その費用は特別受益にはならないと思われます。
 大学の学資は、一般的には特別受益になると思われますが、被相続人の資力、社会的地位、生活状況などに照らして、その程度の教育をするのが普通だと認められる場合には、親の負担すべき扶養義務の範囲内とみることができるので、特別受益にはならないと考えられています。
 また、相続人全員が大学教育を受け、多少の差はあるもののほぼ同額の利益を受けているときには、特別受益には該当しないと思われます。

2-2-5.死亡保険金

 相続人のうち1名が受け取った死亡保険金は特別受益には該当しません。しかし、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が特別受益の制度の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に準じて持戻しの対象になります(平成16年10月29日 最高裁判所第二小法廷判決)
 なお、平成17年10月27日東京高等裁判所決定は、相続人のうち1名が受け取った保険金額は合計1億0129万円(1万円未満切捨)に及び、遺産の総額(相続開始時評価額1億0134万円)に匹敵する巨額の利益を得ていたというような事情下で、生活実態及び被相続人との関係の推移を総合考慮しても、平成16年10月29日 最高裁判所第二小法廷判決の述べる特段の事情が存することが明らかというべきであるとして、。死亡保険金額の合計1億0129万円(1万円未満切捨)は特別受益に準じて持戻しの対象となるとしました。

2-2-6.死亡退職金等の遺族給付

 受給者である遺族の生活保障を目的とした制度によるものなので、特別利益には当たらないことが多いでしょう。

2-2-7.債務の肩代わり

 債務の肩代わりは、肩代わりした債務額や、求償権を放棄したかどうかなどが特別受益となるかどうかを判断する基準となります。
 平成3年11月19日高松家庭裁判所丸亀支部審は、相続人の身元保証をしていた被相続人はその責任を問われ、右勤務先等に対し、300万円を支払ったが、被相続人はその相続人に対し、肩代わりした金銭の請求しておらず免除したものと解されるという事情下で、上記の債務の立替は「生計の資本としての贈与」とは解することができないけれども、求償債権の免除は、「相続分の前渡し」としての「生計の資本としての贈与」と解するのが相当であるとしました。

2-2-8.借地権の譲渡

 被相続人が有していた借地権を無償で譲り受けた場合、一般的には特別受益に該当すると思われます。一方、相応な対価を支払って譲り受けていた場合は、特別受益に該当しないか。該当したとしても持戻し免除の意思表示が認められる場合もあると思われます。

2-2-9.遺産土地についての使用借権

 遺産である土地のうえに相続人の一人が、被相続人の許諾を得て建物を建てて、その土地を無償で使用している場合の使用借権は特別受益になります。ただし、持戻し免除の意思表示が認めれられる場合も多いと思われます。

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3.特別受益の計算方法

 事例を通して特別受益による相続分の修正方法方法について解説いたします。

<例>
被相続人:父
相続人:子供3人
遺産総額:3000万円
特別受益:三男の特別受益の額600万円

この場合の特別受益による相続分の修正による計算方法は次の通りです

①特別受益の額を、相続財産に加えて「みなし相続財産」を計算します。
→相続財産3000万円+三男の特別受益600万円=3600万円

②①で計算したみなし相続財産を、法定相続分で分割します。
→2400万円÷3=1200万円

③あらかじめ加えていた三男の特別受益の額を、②で計算した三男の相続分から引きます。
三男の相続分1200万円-600万円=600万円

特別受益に修正された相続分は以下のようになります。

長男 1200万円
次男 1200万円
三男  600万円

4.持戻しの免除

 特別受益の持戻しは相続人間の公平を図ると同時に、 被相続人の合理的意思を推測した算定方法であるので、 被相続人が持戻しを希望しない意思を表明している場合には、持戻しを行わないことになります。これを特別受益の持戻しの免除といいます。
 持戻免除の意思表示は、特別の方式は要せず、一般の意思表示と同様に明示のものでも、黙示の意思表示でもよいとされています。遺言で持戻しの免除をすることもできます。
 持戻しの免除がされると、通常の法定相続分で計算することになります。但し、持戻しの免除も他の相続人の遺留分を侵害している場合は遺留分減殺請求の対象となる遺贈や贈与になる恐れがあることに注意が必要です。
 

5.まとめ

 ここでは特別受益について説明をいたしました。特別受益かどうかを判断するためには、制度を理解したうえで、相続における様々事情をくみ取って、あてはめていく必要があります。

 本記事が、少しでもお役に立てれば幸いです。

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