「不動産を買ったんだけど登記しなくて大丈夫かな?」
ときどきこのような質問をお聞きすることがあります。
このようなとき、権利の登記に関しては次のような点をご説明しています。
「権利登記には期限はありません」
「権利登記は義務ではなく権利です」
「しかし、しなかった責任を負うのは登記を申請できる方自身です」
では、登記をしなかったときにはどのような危険があるのでしょうか?
1.表題登記を欠く場合・・・過料
不動産登記は、大きく「表示の登記」と「権利の登記」の2つに分けられます。
「表示の登記」は不動産の種類・構造・広さなど客観的な特徴を登記するものです。
一方「権利の登記」は、誰のものか(所有権)、誰かの担保がついていないか(抵当権などの担保権)、第三者が使用していないか(地上権や賃借権)などを登記して明らかにすることによって、不動産の権利関係を明らかにするものです。
そして、「表示の登記」のうち、
・建物を新築時したとき行う「建物表題登記」
・建物を取り壊したときに行う「滅失登記」
・土地の地目が変更した際に行う「地目変更登記」
などの登記は、取得の日などから1か月以内にしなければならないとされており、これを怠った場合は10万円以下の過料に処するとされています(不動産登記法164条)
一方、「権利の登記」に関しては時間的制限は設けられていません。では、しなくていいか・・・というわけではなく、怠った場合は、次のような事態を招く可能性がありますので、「権利の登記」は権利取得後速やかに行ってください。
2.所有権移転登記を怠った場合・・・二重譲渡
「二重譲渡」とは、同じ不動産が、2人の者に譲渡したときの関係を言います。
日本は法律上は他人の物であっても自由に売買できることになっていますので、このような状態を招くことがあります。
例えば、AはBに不動産を売却した後、同じ不動産をCにも売却したとき、BとCのどちらが優先されるのかという問題が生じます。
このときに、先に買ったほうが優先されるのではなく、先に不動産登記を行った者が優先するとされています。
上の例で、Bが登記をしない間にCが登記をしていた場合、CがBに優先することになります。
登録免許税などの税金が発生することから、登記をしないままに放置している場合があります。
登記をしない場合は、いつの間にか第三者に権利が譲渡されてしまったり、勝手に担保権がつけられてしまう可能性がありますのでご注意ください。
3.相続登記を行った場合・・・分割協議の困難化
通常の相続登記は共同相続人全員で遺産分割協議を行い、その遺産分割協議書の内容に従って、相続登記を申請します。遺産分割協議は共同相続人全員で行うことになっているため、相続人の1名が死亡した場合、その死亡した相続人の相続人が遺産分割協議に参加することになります。人の世は無常であり、人は誰しもいつかなくなります。相続登記をしないまま放置した場合、いざ必要な時に自己の名義にできない場合があります。
面倒だなと思っても相続登記は早めにされることをお勧めします。
4.相続登記を行った場合・・・持分の無断譲渡
考えすぎかもしれませんが、相続について対立が激しい場合は、不動産の持ち分が無断で譲渡される可能性があります。遺産分割協議が成立していなくても、不動産登記手続上、必要な戸籍謄本類がそろえば、法定相続分とおりの相続登記をすることができます。この法定相続分とおりの相続登記は、相続人ならだれでも行えることになっています。たとえ相続人が10人にいようと、相続人のうち1名から申請すれば手続きが完成してしまいます。
この手続きでは、不動産を単独所有にできるものではなく、法定相続分通りの共有状態にするものですが、一度相続登記を入れて置いたら、自分の持ち分は自由に譲渡することができますので、相続人以外の第三者に売却して、さらに相続関係が複雑化する可能性もないとは言い切れません。
まとめ
「権利の登記」は、自分の権利を守るために行うものであることから、とくにいつまでにしなければならないとはされています。言い換えれば、自分の権利なんだから、しっかりと自分で守らないといけないということです。
東北の復興についても、相続登記をせずに放置したままにしていたため相続関係が複雑化してしまい、復興が進まないというような問題も生じてきているようです。
自分のため、その他多くの人のため、登記は早めに行ってください。