相続財産の処分と法定単純承認に関す判例をまとめました。
相続放棄、限定承認などをお考えの場合は参考になることがあるかもしれません。
民法921条第1項に該当しないとされたもの
昭和40年5月13日 山口地方裁判所徳山支部(下級裁判所民事裁判例集 16 巻 5 号 859 頁、家庭裁判月報 18 巻 6 号 167 頁、判例タイムズ 204 号 191 頁)
■「形見の趣旨で背広上下・冬オーバー・スプリングコートと位牌を分けて貰って持ち帰り、・・・時計・椅子二脚の送付を受けて、受領」しても単純承認には該当しない事例
昭和41年12月22日 最高裁判所 第一小法廷(最高裁判所裁判集民事 85 号 787 頁、家庭裁判月報 19 巻 4 号 53 頁、金融・商事判例 39 号 18 頁)
■行方不明の被相続人の財産を他人に譲渡した事例で、このような事情のもとに被相続人の死亡を知らないで相続財産を処分しても、民法第921条第1号による単純承認の効果は生じないとした事例
昭和54年3月22日 大阪高等裁判所(家庭裁判月報 31 巻 10 号 61 頁、判例タイムズ 380 号 72 頁、判例時報 938 号 51 頁、金融・商事判例 567 号 20 頁、旬刊金融法務事情 892 号 39 頁)
■行方不明であつた被相続人が遠隔地で死去したことを所轄警察署から通知され、取り急ぎ同署に赴いた抗告人ら妻、子が、同署から、被相続人の着衣、身回り品の引取を求められ、やむなく殆んど経済的価値のない財布などの雑品、被相続人の所持金20,432円の引渡を受けたり、この引き渡しを受けた所持金を、被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の一部の支払に充てたのは、人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであつて、これをもつて、相続人が相続財産の存在を知つたとか、債務承継の意思を明確に表明したものとはいえないし、民法921条1号所定の「相続財産の一部を処分した」場合に該るものともいえないとした事例
民法921条第1項に該当するとされたもの
昭和37年6月21日 最高裁判所 第一小法廷(最高裁判所裁判集民事 61 号 305 頁、家庭裁判月報 14 巻 10 号 100 頁、判例タイムズ 141 号 70 頁)
■相続開始後、相続放棄の申述及びその受理前に、相続人が被相続人の有していた債権を取立てて、これを収受領得する行為は、民法第921条第1号本文の相続財産の一部を処分した場合に該当するとした事例
平成10年4月24日 東京地方裁判所(判例タイムズ 987 号 233 頁、金融・商事判例 1056 号 31 頁)
■相続人が、被相続人の経営していた会社の取締役選任決議に際して被相続人保有の株主権を行使したり、被相続人所有のマンションの賃料振込先を自己名義の口座に変更した行為はいずれも民法第921条の相続財産の処分に該当するから、法定単純承認があったものであり、債務を承継したこととなる。
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